不動産王の自白
ロバート・アレン・ダースト(Robert Alan Durst)は、アメリカの不動産王であり、2件の殺人事件の容疑者として知られています。彼の波乱万丈な人生は、2023年に公開された映画「オール・グッド・エヴリシング(All Good Everything)」のモチーフにもなりました。
裕福な家庭で育ち、不動産王となる
ダーストは1941年、ニューヨークの裕福な家庭に生まれました。父親は不動産会社を経営しており、彼はその会社を継承して成功を収めました。特に、9・11テロ後に再建されたワールドトレードセンターの1棟を所有していたことで知られています。
最初の殺人事件:妻の失踪
1982年、ダーストの妻キャスリーンが失踪しました。キャスリーンは外出先から帰宅せず、連絡も取れなくなったため、ダーストは妻の失踪を警察に届けました。彼は、妻を約束の場所で駅に降ろした後、行方不明になったと証言しました。
しかし、ダースト夫婦は当時、離婚協議中であり、キャスリーンは夫からのDVを受けていたという証言もあり、ダーストは有力な容疑者として捜査されました。しかし、証拠不十分で釈放され、キャスリーン失踪事件は未解決事件となりました。
2番目の殺人事件: 友人スーザン・バーマンの殺害
2000年、ダーストの友人でありジャーナリストのスーザン・バーマンが、後頭部を銃で撃たれて死亡する事件が発生しました。当時、バーマンはキャスリーン失踪事件について、ダーストに不利なインタビューを予定していました。
バーマンの遺体には抵抗の跡がないことから、被害者と面識のある人による犯行と推定され、再びダーストは容疑者として捜査されました。しかし、やはり証拠不十分で釈放されました。
その他の事件
ダーストは、2001年に身分を隠して隠遁生活を送っていた際に、自分の正体を察知した隣人を殺害しましたが、正当防衛として無罪となりました。また、1971年に失踪したミドルベリー大学の学生リン・シュルツを殺害した容疑でも受けましたが、証拠不十分で無罪となりました。
決定的な証拠:ドキュメンタリーでの自白
2013年、映画監督のジェレキ氏はダーストの事件を題材にしたドキュメンタリーを制作しました。ダースト氏はインタビューに快く応じましたが、その理由は疑惑を晴らすためでした。
しかし、インタビュー後、マイクとカメラがまだオンになっていることに気づかず、ダースト氏は自白のような言葉を呟きました。
「What the hell did I do?(俺が何をしたかって?)」
「Killed them all, of course.(もちろん、全員殺したよ。)」
この発言は録音されており、監督はすぐに警察に通報し、ダースト氏は緊急逮捕されました。
裁判と判決
ダースト氏は自白しているにもかかわらず、殺人の疑いを否認し続けました。彼は高額な弁護士団を雇い、自白は単なる冗談であり、同意なしに録音されたものは証拠として認められないと主張しました。
録音の証拠能力については、ダースト側の主張に法的な妥当性がありました。また、犯行に関する直接的な証拠が見つからなかったため、無罪判決の可能性も高かったのです。
しかし、2021年9月、ダースト氏は陪審員評決で有罪判決を受け、翌月、ロサンゼルス高等法院から終身刑を言い渡されました。
ダースト氏は2022年1月10日、収監先の刑務所で自然死しました。
ロバート・アレン・ダーストは、富と権力を持つ一方で、殺人という恐ろしい罪を犯した人物です。彼の事件は、人間の心の闇と、法体系の限界について多くの疑問を投げかけています。
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