その航空会社には本当にナッツマニュアルがあった!

ナッツ回航事件(大韓航空ナッツ・リターン)は、2014年12月5日、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港で発生した、ファーストクラスの乗客として搭乗していた大韓航空の副社長(当時)チョ・ヒョナ氏が、機内サービスのナッツ提供を巡ってCA(客室乗務員)にクレームをつけ、航空機を搭乗ゲートまで引き返し、運航を遅延させた事件です。

搭乗ゲートまで引き返す航空機
搭乗ゲートまで引き返す航空機

事件の経緯、CAに本当に非があったのか、その後、チョ・ヒョナ氏と大韓航空はどのように対応したのか、彼らがCAと乗客に対してどのような補償を行ったのか、国内メディアではあまり取り上げられていない詳細について掘り下げます。


ピーナッツ姫事件の全貌:客室乗務員と乗客の証言

この事件は、当時ファーストクラスに搭乗していたチョ・ヒョナ氏が、CA(客室乗務員)から提供されたナッツ類のお菓子をめぐって起こりました。

チョ・ヒョナ氏は、「乗客の意思を確認せず、皿に盛らずに袋のままお菓子を提供するなど、機内サービスがなっていない」と激怒し、CAとパーサーを跪かせた状態で侮辱し、サービスマニュアルケースの角でパーサーの頭を何度も突いて傷つけました。

「ザ!世界仰天ニュース」で放送された「ピーナッツ姫事件」
「ザ!世界仰天ニュース」で放送された「ピーナッツ姫事件」

パーサーは、タブレットPCを使って乗客対応マニュアルをチョ・ヒョナ氏に示すと、叱責を止めました。しかし、その後、パーサーは飛行機から降ろされたとされています。

同乗していた乗客の証言

チョ・ヒョナ氏は、跪いたままマニュアルを探しているCAを立ち上がらせ、威圧的に押し倒しました。片手でCAの肩を搭乗口の壁まで約3メートル押しつけ、(マニュアルが入っていた) ファイルを丸めてCAのすぐ横の壁に投げつけました。CAは恐怖に怯え、見るも無残な姿でした。最初はCAだけを降ろそうとしましたが、その後、CAの代わりにマニュアルを見せようとタブレット端末を持ってきたパーサーに対して、「CAの代わりにあんたが降りろ」と絶叫しました。

 

本当に客室乗務員のサービスに問題があったのか?

実は、機内サービスはあくまでサービスであり、明確な基準はありません。そのため、国や航空会社によって文化やマナーに基づいたサービス内容が異なり、場合によっては同じ国の航空会社間でも違いが生じる可能性があります。。

大韓航空の場合、サービスマニュアルは存在するものの、ファーストクラスのサービス内容には、オーナー一族の影響が最も強く反映されていると言われています。ある日には、オーナー一族の指示により、シャンパンサービスの指針が同日3回連続で変更された事例があったそうです。


大韓航空にはナッツ類提供マニュアルが存在した

大韓航空には、ナッツ類の提供方法に関するマニュアルが存在しました。2007年以前は、ナッツ類を食器に盛り付けて提供していましたが、ある大手企業の会長から「ナッツ類を食べないお客様やアレルギーをお持ちのお客様もいらっしゃるでしょう。そのまま捨てるのはもったいない。」というご意見があり、袋のまま提供する方法に変更されました。

具体的には、2007年以降は、ナッツ類の入った袋をお客様に提示し、召し上がられるかどうかを確認してから、召し上がられる場合は袋から出して食器に盛るという方法に変更されました(大韓航空が制作した広報動画には、マカダミアナッツを袋に入れたまま提供するシーンが含まれていました)。そして、CAはこのマニュアルを完全に遵守していました。

大韓航空の広報動画で、マカダミアナッツが袋に入れたまま提供されている場面
大韓航空の広報動画で、マカダミアナッツが袋に入れたまま提供されている場面

つまり、サービス自体は全く問題なかったのですが、副社長がファーストクラスのサービスマニュアルを理解していないまま、CAを不当に叱責したことが問題だったのです。

大韓航空の不適切な対応

大韓航空は、チョ・ヒョナ副社長の行動を弁護・合理化するため、「客室乗務員の教育を強化する」などの内容の声明を繰り返し発表し、韓国国民の反発をさらに高めました。

チョ・ヒョナ氏が残したとされるメモ
チョ・ヒョナ氏が残したとされるメモ

チョ・ヒョナ氏は、パーサーに直接謝罪しようとしましたが、会えなかったため、謝罪のメモを残したことが明らかになりました。しかし、そのメモは数行の短い文章で、手書きのメモ用紙に書かれており、真摯な謝罪というよりも、世論の批判をかわすためのパフォーマンスと見なされました。

一等席乗客への不適切な補償

当時、一等席にはチョ・ヒョナ副社長とパク氏(32歳、女性)の2人の乗客が搭乗していました。パク氏は帰国後すぐに大韓航空に電話して抗議しましたが、12月5日に事件が発生してから2度電話したにもかかわらず、12月10日になってようやく担当者から連絡が取れたとのことです。
大韓航空「お詫びの品」として提供すると提案した模型
大韓航空「お詫びの品」として提供すると提案した模型

さらに驚くべきことに、大韓航空の役員がパク氏に電話をかけてきて、謝罪の意から、卓上カレンダーと模型飛行機を「お詫びの品」として提供すると提案したとのことです。さらに、その役員は「もしインタビューを受けた場合は、きちんと謝罪してもらったと話してください」と頼んだともされています。

結局、激怒したパク氏は、調査官や記者たちの前で事件の真相を暴露しました。なお、大韓航空の模型飛行機は、一般の人も面接や体験学習に参加した際にも記念品として配布されるものでした。

客室乗務員とパーサーは民事訴訟を提起

客室乗務員とパーサーは、当時チョ・ヒョナ氏の行為がアメリカ合衆国ニューヨーク州ジョン・F・ケネディ国際空港で発生したことなどを理由に、アメリカで民事訴訟を提起しました。

韓国とは異なり、アメリカでは巨額の損害賠償請求訴訟に発展する可能性がありました。これまで不適切な対応で問題を悪化させてきた大韓航空は、今回も客室乗務員とパーサーの正当な訴訟を、金目当ての脅迫だとする報道を意図的に操作し始めました。

アメリカでの訴訟の結末

アメリカの裁判所は、原告と被告の双方の当事者、証人、証拠がすべて韓国に所在し、証人への召喚状の送達が困難であることを理由に、すべての訴訟を却下しました。一方、パーサーは韓国の裁判所から被害を認められ、700万円の損害賠償金を受け取りました。

チョ・ヒョナ氏への処分

記者会見で謝罪するチョ・ヒョナ氏、目が怖いと多くの人が指摘
記者会見で謝罪するチョ・ヒョナ氏、目が怖いと多くの人が指摘

事件の当事者である大韓航空の元副社長、チョ・ヒョナ氏は、懲役10ヶ月に執行猶予2年の判決を受けました。